他の人もいますから・・

 人に迷惑をかける、もっと言えば、自分がごねていることも気づかずにごねられたり、こちらの時間をまったく気にせずに延々と話をされたり、もしくは他の人に手を出してしまうような行動障害、行為障害の人など、対応が難しい人に対して言ってしまいがちなのが、「他の人もいますから・・・(そろそろ終わりにしてもらえませんか)」という言葉である。
 対応する側からすれば、他にも相談者がいたり、利用者がいるのは事実であるし、確かに他の人からすれば、当の本人は迷惑な存在であるのも確かである。

 しかし・・である。

 そもそも「他の人もいる」とわかっていて、このような振る舞いをする人は、相談とは別の意図があると思う。言葉は悪いが、難癖をつけて自分の要求を通そうという人たちだ。この場合、「他の人もいますから・・・」という言葉は相手に自分のほほを向けて、叩いてくださいと言っているようなものだ。
「それじゃあ、この私はどうなってもいいのか。こんなに困っているのに。困っている人間をほっておくのはここは」というようなことを返され、返答に困り窮地に立たされる。大したことでなければ、なかば釈然としない気持ちのまま、相手の言うことを飲んでしまうこともある。が・・一度そのようなことをしてしまえば、次からは相手のペースから始まり、より一層困難な支援になるだろう。生きる術としてこのような交渉術を身に付けてきている人たちは、やはりこのやり方が正しいと思うだろう。

 その他大多数の人たちは、「他の人がいるのはわかっているけれど、それどころじゃないほど困っている」と感じているか、そもそも「他の人」の存在を認識できないのである。
 迷惑なのは承知だけれども、それどころではない、のだ。こういう人たちにとって、「他の人たちもいますから・・・」というのは、言い訳に聞こえる。
 つまり、「受け止めてもらえないんだ」「できないんだ」ということになる。行動障害を持つ人の家族は、大変なのは分かっているし、迷惑をかけるのもわかっているけれども、それでも頼まなければ生活が成り立たないから、心苦しいけどお願いをしている。支援がサービスだからと言って、迷惑をかけていいと割りきっているわけではない。その家族に対し「他の人もいますから・・・」と言うのは、「やっぱりダメなんだ」というあきらめと絶望を与えるだけである。
 そもそも、「他の人もいますから・・」というのは、自分が対応できないことを他の人の責任にしていることになる。それに、相談している人にとっては、他の人はまったく関係ない。関係あるのは、相談を受ける側の都合である。

 相談を受ける方は、神様ではない。物理的にも精神的にも能力的にも限界はある。自分にその限界が訪れた時、言わなければならないのは「他の人もいますから・・」という言葉ではなく、自分では難しいということを誠実に伝えることである。
 相手の不安や悩みをできうる限り受け止めて、そして受け止めてもらえたという実感を相手が持てるように努力をして、その上でしっかりと現実を伝える。
 そうした姿勢から、すべてははじまる。

 「他の人もいますから・・・」という言葉は相手に甘えている。
 絶対に言ってはいけない。