産業化 その1

 近現代の歴史において、イギリスで起こった産業革命は、今の経済社会を形成すると共に、近代の社会保障社会福祉を形成した。産業化は、それまでの職人の手仕事による零細な生産力から、機械と労働集約による飛躍的な生産能力の拡大をもたらした。農地を拡大していく過程の中で、農園主と小作の関係があったように、雇用主と労働者という格差と新たな階級が生まれた。

 労働力の集約は、結果として人口密集地帯を生み、劣悪な生活環境と低い賃金は、保護を必要とする者達の集団を形成し、結果として社会の維持形成のために今日の社会保障を必要とした。
社会福祉の入り口では、誰でも学ぶことである。・・が、少し違った視点から「産業化」を考えてみたい。
 産業化とは、「計画化」「規格化」「代替化」の3要素を要求する。つまり、「誰でも」「確実に」「同じ」物を生産できる仕組みの構築である。

はじまり・・

思い描く仕事の話。
 自分が障害者福祉の仕事を始めたのは1994年(平成6年)。今は2015年(平成27年)。すでに20年という日が過ぎた。行政が責任を持って措置する制度から、利用者が自由にサービスを利用できる制度を目指すという明確な目標があった時代からスタートした。あの頃は、行政は何をやっても民間の後追いで、在野の実践家が理想を語れた時代。自分達がイノベーターであるという自負と共に熱意を持って仕事が出来た。
 バブル時代が終わるとはいえ、周囲が受け取る報酬と、自分が今手にすることのできるお金のギャップという現実。何も変わらない社会。手がかりもなく、空回りしている感覚。理解ある人々の小さな輪の中での存在しかない自分。
 疲労感と無力感・・ここから去ろうと決めた時には、何の未練もなかった。
 新たな職場に移った時に、介護保険が始まった。措置から契約へ。対象者からお客様へ。情報テクノロジーが自家用車なみに普及する時代となり、複雑な制度設計が可能となり、誰でもどこでも同じサービスを受けられる福祉の時代が訪れた。サービスの適正な供給を可能にするためのケアマネジメントも始まった。全てが行政主導であった。
 人類史上経験したことのない超高齢化社会の到来に対して切り札として導入された介護保険制度であるが、どこか違和感を持ったまま少し離れたところに自分はいた。何もかもが少しづつ違う。
 2001年(平成13年)、人類は外宇宙への旅に出かけることはなかったが、日本の福祉制度は重大な転換期を向かえていた。
 この国の福祉は産業化を始めたのである。